研究領域の現状 197
藤 貴 夫(准教授) (2010 年 2 月 1 日着任)
A -1).専門領域:量子エレクトロニクス,レーザー物理,非線形光学,超高速分光
A -2).研究課題:超短光パルスの研究
a). 超短光パルスの超広帯域波長変換技術の開発 b).超短光パルスの位相制御,評価の研究 c). 超広帯域光源による超高速分光
A -3).研究活動の概略と主な成果
a). 超短光パルスを発生できるレーザーの波長は限られている。それを様々な波長へ効率よく,パルス幅を短い状態で 波長変換する技術は,超短光パルスの応用範囲を広げる上で,非常に重要である。この研究では,固体結晶と比べ て透過領域が桁違いに広い気体を波長変換媒質として使用することで,真空紫外から赤外光までの超短光パルスを 同時に発生させることを目標としている。気体は非線形係数が小さいため,一般的に効率は低いが,超短光パルス のフィラメンテーションという現象を使うことで,効率のよい波長変換が行える。フィラメンテーションとは,高強 度の超短光パルスをゆるやかに気体に集光することで,非線形効果による屈折率の増加とプラズマ発生による屈折 率の減少が釣り合い,レイリー長よりはるかに長い距離をビームが集光されたまま伝搬する現象である。この効果に よって,極めて高い強度で長い相互作用長の波長変換を行うことができ,気体としては非常に高い効率で波長変換 を行うことができる。この手法は,藤准教授が前職の理研において発展させた研究である。今年の成果としては, チタンサファイアレーザーの基本波(800. nm)と二倍波(400. nm)を空気またアルゴンガス中に集光し,2.µm から 20.µm まで波長帯域の広がった超短光パルスを発生させることに成功した。パルスエネルギーは 250. nJ 程度であり, 一般的な非線形分光に使用するには十分なエネルギーである。
b).前述の研究によって発生した広帯域中赤外光パルスのパルス幅を測定する実験を行った。2.µm から 20.µm まで波長 帯域の広がったコヒーレント光について,すべての波長領域の光について位相関係を求めることは容易ではない。本 研究では,発生と同様に空気を非線形媒質として,参照光パルスと中赤外光の相互相関スペクトルを測定する手法 をとった。空気を非線形媒質として使用することにより,広帯域な位相整合が可能となり,広帯域中赤外光に対応す ることができた。この方法によって,測定されたパルス幅は 10.8. f s となった。中赤外光パルスの中心波長は 4.4.µm であり,単一サイクルよりも短いパルスとなっていることがわかった。また,中赤外光パルスの位相の安定性を計測し, さらにその位相制御の実験を行った。中赤外光パルスを発生させるために使用しているチタンサファイアレーザーの 基本波と二倍波との遅延時間を制御することで,中赤外光パルスの位相を自在に制御できることを示した。
c). 前述と同等の手法で発生した紫外光パルス(200,260.nm)を使って,超高速光電子イメージング分光を気相の分子 について行った。ベンゼン(C6H6)や二硫化炭素(C S2)の分子について,寿命が 20. f s 程度で減衰する超高速過程 を明瞭に観測した。それぞれの実験結果について,分子動力学をつかった理論計算結果と比較し,それぞれの分子 における超高速ダイナミクスについて,理解を深めることとなった。この研究は,前職の理化学研究所で行われた研 究であり,分子研では,今後,前述の赤外光パルスを使った二次元分光を行うことを予定している。
198 研究領域の現状 B -1). 学術論文
T. FUJI, Y.-I. SUZUKI, T. HORIO and T. SUZUKI, “Excited-State Dynamics of CS2 Studied by Photoelectron Imaging with a Time Resolution of 22 fs,” Chem. –Asian J. 6, 3028–3034 (2011).
Y.-I. SUZUKI, T. HORIO, T. FUJI and T. SUZUKI, “Time-Resolved Photelectron Imaging of S2 → S1 Internal Conversion in Benzene and Toluene,” J. Chem. Phys. 134, 184313 (8 pages) (2011).
Y. NOMURA, Y. ITO, A. OZAWA, X.-Y. WANG, C.-T. CHEN, S. SHIN, S. WATANABE and Y. KOBAYASHI, “Coherent Quasi-cw 153 nm Light Source at 33 MHz Repetition Rate,” Opt. Lett. 36, 1758–1760 (2011).
B -2). 国際会議のプロシーディングス
T. FUJI, Y.-I. SUZUKI, T. HORIO and T. SUZUKI, “Time resolved photoelectron imaging of polyatomic molecules with
15 fs UV pulses,” PQE-2011 p. 182 (2011).
T. FUJI and Y. NOMURA, “Ultrabroadband mid-infrared source based on four-wave mixing in gases,” LPHYS2011 Seminar
5.3.4 (2011).
T. FUJI and Y. NOMURA, “Ultrabroadband mid-infrared source based on four-wave rectification in gases,” Ultrafast Optics 2011 We03 (2011).
Y. NOMURA, Y. ITO, A. OZAWA, X.-Y. WANG, C.-T. CHEN, S. SHIN, S. WATANABE and Y. KOBAYASHI, “Coherent
Quasi-cw 153 nm Light Generated at 33 MHz Repetition Rate,” CLEO: 2011—Laser Applications to Photonic Applications CMJ4 (2011).
N. KUSE, Y. NOMURA, A. OZAWA, M. KUWATA-GONOKAMI and Y. KOBAYASHI, “Passive synchronization of
repetition and offset frequency between two mode-locked Yb-doped fiber lasers,” CLEO: 2011—Laser Applications to Photonic Applications JThB121 (2011).
B -4). 招待講演
T. FUJI, “Time resolved photoelectron imaging of polyatomic molecules with 15 fs UV pulses,” PQE-2011, Snowbird (U.S.A.),
January 2011.
T. FUJI, “Ultrabroadband mid-infrared source based on four-wave mixing in gases,” LPHYS2011, Sarajevo (Bosnia and Helzegovina), July 2011.
藤 貴夫 ,.「単一サイクル中赤外光パルス発生」,.理研シンポジウム,.和光 ,.2011年 12月.
B -6). 受賞,表彰
藤 貴夫 ,.日本光学会奨励賞.(1999). 藤 貴夫 ,.大阪大学近藤賞.(2008).
B -7). 学会および社会的活動 学会の組織委員等
C L E O/E urope.2007国際会議プログラム委員.(2007). 化学反応討論会実行委員.(2009).
研究領域の現状 199 C L E O/Pacific.R im.2009国際会議プログラム委員.(2009).
HIR A S 国際会議プログラム委員.(2011).
C L E O/E urope.2011国際会議プログラム委員.(2011). HIL A S 国際会議プログラム委員.(2012).
B -8). 大学での講義,客員
(独)理化学研究所 ,.客員研究員,.2010 年 2月–..
B -10).競争的資金
科研費奨励研究 (A ),.「サブ5フェムト秒パルスによる位相敏感超高速分光」,.藤 貴夫.(2000 年 –2001年 ).
(独)理化学研究所研究奨励ファンド ,.「搬送波包絡線周波数の安定した超短赤外光パルス発生」,.藤 貴夫.(2006年 ). 科研費若手研究 (A ),.「光電子イメージング分光のための10フェムト秒深紫外光パルス発生」,.藤 貴夫.(2007年 –2008年 ). 自然科学研究機構若手研究者による分野間連携プロジェクト,.「プラズマを使ったフェムト秒中赤外光パルス発生の研究」,.藤 貴夫.(2010 年 –2011年 ).
科研費特別研究員奨励費 ,.「高次高調波発生による高繰り返しの極端紫外光源の開発およびその応用」,.野村雄高.(2010 年 ). 豊秋奨学会海外渡航旅費助成 ,.「153.nm におけるコヒーレントな高繰り返し準連続光源」,.野村雄高.(2011年 ).
C ). 研究活動の課題と展望
フィラメンテーションを用いた波長変換は,気体を媒質としながらも,高効率な超短光パルスの波長変換法として有効であり, これまで,近赤外光のチタンサファイアレーザーの出力を真空紫外や赤外への波長変換を実験的に示してきた。今後,これ らの波長の光を同時に発生させ,それらを使ったユニークな分光を行うことを目指している。本年度は,当面の目標としていた, 3–20.µm にわたる広帯域な赤外光を発生させることに成功した。今後は,この光源の特徴をいかした新しいタイプの分光法 を開発し,分子科学の発展や,生物,医療など異分野へ応用していくことを考えている。また,チタンサファイアレーザーだ けでなく,高繰り返し周波数が可能なファイバーレーザーを独自の手法で開発することも視野に入れている。分光では,高繰 り返し周波数がデータ取得において極めて重要であり,新しい光源を開発する価値は非常に高いと考えている。